
既存防水(前回の防水改修工事)は、押さえコンクリート層の伸縮目地交差部に脱気盤を設けた、ウレタン防水の目地脱気と呼ばれる工法により施工されていました。

施工前の屋上防水の様子。遠目に見るとそんなに悪くはないように思えますが、詳細に見ていくと以下のような改善ポイントが見えてきます。①脱気盤の取り付け位置がよくない。②パラペット立上り部に防水層のひび割れが数ヶ所見られる。③ドレーン(排水口)廻りが危険な状態にある。④既存クラックタイトが未処理のまま施工されていたため、その周囲には防水層のクラックが多数見られる。


施工後の屋上防水の様子。今回は不良部を撤去及び処理した上で通気緩衝シートを敷き詰めた、ウレタン防水の国土交通省X−1工法により施工しました。


まず目に付いたのが脱気盤です。下地に溜まった水分を蒸発させるための装置として、写真のような脱気盤や後述の脱気筒がよく使われます。通常、脱気盤は脱気筒に比較して性能的に半分以下であるため、設置数を多くしなければなりません。そのためであろうか、水下(排水溝付近や排水勾配の低いところ)にも設置されていて、水たまり(雪でも怖いのに)に埋まっている脱気盤もありました。


脱気盤を撤去したところです。伸縮目地の溝には水が溜まっています。脱気盤を使うこと自体はよくあることですが、その使い方・耐久性については十分に検討する必要があります。歩行の際に邪魔にならないからといって、安易に選択しないほうがよいと思います。弊社では防水工事が基本的に10年保証であるため、信頼性の高い脱気筒を当初より使用しています。


平らな防水面に通気緩衝シートを貼り付けた上で、脱気筒を設置します。伸縮目地を通気溝として利用しつつ、このシートの裏面についた溝を介して、下地に含まれる水分を脱気筒で逃がしてやります。こうすることで防水層のふくれを防止し、下地挙動を緩衝することでウレタン防水層の破断を防ぎます。


通気緩衝シートの上にウレタン防水材を2回に分けて塗布し、トップコートを塗って完了です。脱気筒取り付けの目安は概ね50㎡に1ヶ所程度としていますが、下地の状態によって現場ごとに判断しているのが実情です。そして出来る限り水上(水勾配の高いところ)に設置しなければ、効果は半減しますので注意が必要です。ルーフバルコニー等歩行が前提とされるところでは、設置位置を決める際に、お施主さまと十分な打ち合わせが必要です。専門の防水業者なら、邪魔にならない場所の選定や、そのための工夫といった的確なアドバイスをしてくれるはずです。


施工前の笠木。パラペットに設置された笠木のジョイント部のシーリングは完全に劣化しています。また、その下部立上りにうっすらとひび割れが見えます。


笠木を外したところです。パラペット天端と立上りにひび割れがはっきりと確認できます。ひび割れたまま防水層を形成しても、数年は大丈夫かも知れませんが、また同じところからひび割れを起こしてしまいます。


予定していた通りに全ての笠木を一旦取り外して、天端と立上りのクラック処理を施したあと、先施工によりこの部分の防水を仕上げ、再度笠木を元に戻し、ジョイント部はブリッジ工法によりシール処理をしました。


施工前の横抜きドレーン廻り。排水パイプ接合部のシール等肝心なところが疎かになっていました。単にウレタン防水で塗られているだけのようでした。これでは躯体に雨水が浸入してしまいます。


鉛製の改修用ドレーンを裏側から見たものです。蛇腹のホースを排水口の中に入れ、鉛の板を叩き出して既存の下地形状によく馴染ませます。


改修用ドレーンを取り付けたところです。漏水事故が比較的多い排水口廻りについては、防水改修時に注意すべきポイントの一つです。ただし、改修用ドレーンを使うということは、パイプの中にパイプを入れた2重の安心感がある反面、必然的にその口径が小さくなってしまいます。排水口径が大きいビルやマンションの場合にはこれでいいのですが、もともとの口径がそれほど大きくない戸建ての場合には、口径の小さなタイプもありますが、むしろ使わないほうがいい場合もあります。その場合には別の方法で補強する必要があります。


施工後の排水溝廻り。改修用ドレーン端末はシーリング処理したあとガラスクロスで補強し、ウレタン防水の特長であるシームレスな防水層が出来上がります。最後にゴミ等が詰らないようにストレーナーを取り付けて完了です。


平場の通気緩衝シートの上にウレタン防水1層目を塗布しているところです。笠木脱着の関係上、パラペット立上りに関しては先施工により、ガラスクロス併用のウレタン防水3回塗りがこの時点で既に完了しています。


平場2層目のウレタン防水材を塗布し、乾燥後(翌日or翌々日)にトップコートを塗布して完了です。


最後に水抜き処理をしておきます。手すりの根巻まで防水で巻き込んだためです。手すりの支柱には水が溜まりやすく、それが原因で不具合を起こすこともありますので、懸念材料はここで払拭しておきます。